意外と語られない、AIの使い方3つ — 声の辞書を育てる・資料を軽くする・残りを見えるようにする

「終了プロセス」と喋ったのに、画面には「修理プロセス」と出ている。
僕はキーボードをほとんど叩かず、喋って作業しています。なので、こういう小さな化け方が毎日出ます。一つひとつは些細なんですが、固有名詞や、自分の仕事でよく使う言葉ほど、なぜか決まって同じ形に化ける。
AIの使い方の話をすると、たいてい「何をやらせるか」になります。書かせる、調べさせる、作らせる。でも僕の場合、毎日の手応えがいちばん変わったのは、その手前でした。頼む前と、頼んでいる最中の、AIと自分のあいだにあるもの。今日はそれを3つ書きます。どれも地味で、あまり語られないやつです。
1. 声の辞書を、自分で作るのをやめる
冒頭の「修理プロセス」みたいな誤変換は、音声入力の側に「こう化けたら、こう直して」と登録しておけば消えます。昔は、それを手で一つずつやっていました。
これが、続きません。作業中に化けた言葉を見つけても、そこで手を止めて辞書を開くのが面倒で、「あとでやろう」と流す。そして、やらない。結果、同じ言葉が翌日も、その翌日も、同じ形で化けるんです。
いま、その登録はレナードがやっています。レナードというのは、毎日使っている Claude Code に付けた呼び名です。
組み方はこうです。冒頭の「終了プロセス」は、作業を終えるときに僕が言うひと言です。これを出すと、決まった処理が自動で走って、その日の僕の発言だけを一つのファイルに書き出す。レナードがそれを上から読んで、明らかに同じ形で化けている言葉を拾い、辞書の末尾に「化けた形 → 正しい形」で足していく。辞書といっても大げさなものではなくて、音声認識にあらかじめ渡している「こういう言葉が出ますよ」というテキストの、下の方に一行ずつ積まれていくだけです。
面白いのは、これがだんだん僕専用の変な一覧になっていくところです。いま並んでいるのは、使っている道具の名前、将棋の戦法、あとは自分のまわりでしか通じない言い回しばかり。世間一般の辞書とは、似ても似つかない中身です。
つまずいたのは、足す基準の方でした。
最初は慎重にやっていました。文脈によっては誤爆しそうな言葉は登録しない、確実に安全なものだけ足す。そうしたら、ほとんど増えない。一日に一つ拾えればいい方で、これでは一年経っても育ちません。
途中で、方針を逆にしました。ガンガン足して、ひどいのを後で外す。足すコストはほぼゼロだし、やりすぎた補正は、使っていれば目に見えて分かります。逆に、拾い損ねた誤変換は毎日ちくちく効いてくる。どちらが痛いかを並べたら、積極側に倒す方が明らかに得でした。
そのうえで、衝突するかどうかの判断は「辞書として一般に安全か」ではなく「僕が実際に喋る範囲で衝突するか」で見るようにしました。たとえば「製本」を「正本」に直す登録は、辞書一般で考えれば乱暴です。本を作る話をしていたら誤爆する。でも僕は、仕事で製本の話をしません。だったら倒していい。
歯止めらしい歯止めは、じつは残していません。拾い出しから辞書に足すところまで、レナードがそのままやっています。出てきた候補を僕が一つずつ確かめる、ということはしていない。
渡してあるのは、基準の方だけです。固有名詞や専門用語は無条件で足していい、ふだん喋る一般語だけは慎重に、と。あとは、使っていて「なんか変だぞ」と感じた時に、僕が言う。言ってもいない言葉に勝手に直されるようになれば、さすがに気づきます。そこで初めて「それ外して」と言う。
先に一つずつ見ていくより、このほうが手が止まりません。さっきの「ガンガン足して、ひどいのを後で外す」は、外す側もこうやって回している、ということです。
ちなみにこの辞書は、以前ひと月ほど、何を足しても効かない状態になっていました。書き込む先のファイルが移動していて、レナードは古い場所に律儀に書き続けていた。その話は前に別の記事に書きました。作った仕組みは、こういう形で静かに腐ります。
2. 資料は、渡す前に軽くしておく
二つ目は、AIに資料を読ませるときの話です。
僕のところに来る資料は、だいたいPDFかExcelかWordです。仕入先から届く仕様書、価格表、荷物に入っている納品書。楽天の管理画面から落としてくるデータもあります。これを「読んで、まとめて」とAIに渡すこと自体は、みんなやっていると思います。
問題は、原本のまま渡すと、思っているより重いことです。
特にPDFが重い。中身が文字だけの数ページの書類でも、そのまま渡すと、ページを画像として読むぶんが乗ってきます。同じ内容のテキストを渡すのとくらべて、何倍も食う。枚数が増えるほど効いてきて、十数枚まとめて読ませようとすると、それだけで一回の会話の容量をだいぶ持っていかれます。
なので、渡す前に変換をかけています。使っているのは markitdown というツールで、PDF・Word・PowerPoint を、ただのテキストに変換してくれます。
ここが肝心なところで、この変換は自分のパソコンの中だけで完結します。AIを通さないので、変換そのものは何も消費しません。中身は同じまま、渡すときの消費だけが減る。
やっていることは、ほとんどルールを一行決めただけです。レナードに渡している CLAUDE.md に、「マークダウン以外のファイルは、読む前に変換して、変換した方を読むこと」と書いてある。あとはレナードが勝手にそうしてくれます。自動化らしい自動化は、していません。
うまくいかない場合もあります。図やグラフが主役の資料と、スキャンしただけのPDFは、テキストにするとスカスカになる。文字が拾えないので、変換後のファイルがほとんど空に近い状態で出てくることがあります。一度、それに気づかないまま話を進めて、しばらく噛み合わない会話をしました。中身が落ちているのに、渡した側も渡された側も、落ちたことに気づかないんです。
なので今は、変換した結果が薄かったら原本も出す、という分け方にしています。薄いかどうかは、変換したファイルを開いた瞬間に分かるので、判断そのものは一秒です。それと、変換が済んだら原本は消します。同じものが二つ残っていると、次にどっちを読ませたのか分からなくなるので。
3. AIの「残り」を、いつも見えるところに置く
三つ目は、画面の話です。
僕がレナードと作業している画面は、いちばん下の一行に、自分の好きな情報を出しておけます。ステータスラインといいます。そこに僕は、メーターを3つ並べています。棒グラフとパーセントが横に3つ、いま何がどれだけ埋まっているかが、目を動かさずに分かる。埋まり具合の裏返しが、残りです。
出しているのは、コンテキストウィンドウ、5時間分のトークン、1週間分のトークン。この3つです。

一つ目のコンテキストウィンドウは、いま話している会話が、上限のどこまで来たかです。あとどれだけ入るか、と言い換えてもいい。この言葉に最初にぶつかった時のことは、ずっと前の記事に書きました。
これが地味に効きます。会話が長くなると、裏で自動的に圧縮が走ります。それまでのやり取りが要約されて、細かいニュアンスが落ちる。落ちたことは教えてくれないので、こっちは気づかないまま話し続けて、しばらくしてから「あれ、さっき決めたことが通じてないな」となります。メーターは、その圧縮が走る手前で気づくために出しているものです。追い込まれる前に、話が一段落したところで、こちらから会話を切り替える。
だいたい85%を過ぎたあたりで、書いている段落を終えたところで一度切る。そう決めてしまうと、迷わなくて済みます。
残りの2つ、5時間分のトークンと1週間分のトークンは、プランの利用枠をどれだけ使ったかです。契約しているプランごとに、数時間のあいだに使える量と、一週間で使える量が決まっていて、使い切ると次のリセットまで待つことになる。
たまにしか使わない人なら、気にしなくていいと思います。ただ、安いプランで毎日使っている人ほど切実でしょうし、上のプランにしたら消える悩みでもありません。重いモデルを使うほど、枠は早く減ります。
僕がいちばん見ているのは、1週間分の方です。減り方を見ながら、「今週、Fable 5 をあとどれくらい回せるか」の見当をつけている。心細ければ、軽いモデルに落として週末までしのぐ。5時間分の方は、その日の中のペース配分です。朝から飛ばして、仕事中に手が止まるのが、いちばん痛いので。
この3つの表示は、レナードに書いてもらった小さなスクリプトが作っています。差し替えれば中身を好きに変えられるので、見たい数字を自分で選んで置ける。
ここでも、つまずきました。最初に書いてもらったやり方が、パソコンによっては動かなかった。僕は会社のWindowsと自宅のWindows、それにMacの3台で同じ作業場を使っているんですが、Macだけメーターが出ない。調べてもらったら、文字の切り出しに使っていた grep の書き方が、Mac に入っている grep では通らないものでした。書き方を変えて、3台とも同じ表示が出るようになりました。
動く場所が限られているとは、そもそも思っていなかった。そういう種類のつまずきです。
3つに共通していたこと
並べてみて気づいたんですが、この3つは全部、AIに何かをやらせる話ではありませんでした。
一つ目は、AIに入る手前の、言葉の精度。二つ目は、AIに入る手前の、資料の重さ。三つ目は、AIの残りがどれだけあるかの見え方。どれも、AIそのものではなくて、AIと自分のあいだにあるものを触っています。
AIの使い方というと、どうしても「もっとうまい頼み方」に目が行きます。僕もそっちばかり探していました。この3つは地味なうえに、一度組んでしまえば黙って効き続けてくれるので、なおさら話題にのぼりにくいんだと思います。
おわりに
どれも、AIに詳しい人が語るような話ではないと思います。実際、どこかで教わったわけではなくて、毎日ちょっとずつ困っていたことを、その都度どうにかしていたら、こういう形になっていました。
喋って作業する人ばかりではないでしょうし、資料を大量に読ませない人に二つ目は要りません。この3つがそのまま誰かの役に立つかは、正直、分かりません。
ただ、「AIをうまく使えていない気がする」とき、頼み方ではなく、その手前を疑ってみる価値はあると思っています。入れるものの精度、入れるものの重さ、残っている量。僕の場合は、そこに手を入れたのが一番効きました。
同じように毎日AIを使っている人は、どのあたりを整えていますか。
この記事に出てきた言葉
- レナード … 毎日の作業を任せている Claude Code に付けた呼び名。映画『メメント』の主人公から取っています。
- コンテキストウィンドウ … AIが一度に抱えていられる範囲。会話が長くなるほど埋まっていき、埋まると古いところから押し出されます。
- トークン … AIが文章を読み書きするときの単位。読ませた量も書かせた量も、ここで数えられます。
- モデル … AIの中身そのもの。同じ道具でも、賢いモデルと速いモデルを選び分けられます。
- マークダウン … 記号だけで見出しや箇条書きを表せる、ふつうのテキストの書き方。特別なソフトが要らないので、人もAIもそのまま読めます。
- CLAUDE.md … AIに毎回読ませる、作業場の案内役になるファイル。何がどこにあって、どう進めてほしいかを書いておきます。
- スクリプト … 決まった処理をまとめて走らせる小さなプログラム。一度書いておけば、呼ぶだけで同じことをしてくれます。
この記事は、シリーズ「AIに染まりきるまでの4ヶ月」の実践編です。前の記事『動いてるつもりで、止まっていた — 作った仕組みは静かに腐るので、毎月AIに掃除と点検をやらせている』では、作った仕組みが黙って腐るのを月次の点検で食い止める話を書きました。この記事では、その一段手前——AIに入る言葉と資料、そして残りの見え方——を整える3つを書きました。