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Gemini に毎回同じ説明をしていた私が、「コンテキスト」という存在に気づくまで

ノートPCに向かう人の手元、湯気の立つマグカップ

前回、Google Workspace を入れて社内の連絡が数分で回るようになった話を書きました。今回はその続きです。Workspace に標準で付いてきた Gemini を使い込むうちに、ある考え方にたどり着いた、という話をします。

その考え方というのが「コンテキスト」でした。といっても、当時の私はそんな言葉すら知りませんでした。順番に書いていきます。

1. さっきまで普通だったのに、急にとんちんかんになる

Gemini を本格的に使い出したのは、Workspace を入れてからです。でも、最初に触ったのは、その少し前でした。導入しようか迷っていた頃、「Google のことなら、Google の AI が一番詳しいだろう」と思って、ChatGPT ではなく Gemini に Workspace のことを聞いてみました。それが最初です。

Workspace を入れてからは、付属の Gemini を日常の中で使うようになりました。メールの返信案を作らせたり、長い資料を要約させたり。本当に便利だなと思っていて、日々の中に AI が入ってきた感覚がありました。

ところが、使い続けているうちに、不思議なことが起きはじめます。最初は的確だった回答が、だんだんおかしくなっていくんです。同じようなことを聞いているのに、さっきと違う答えが返ってくる。話が噛み合わなくなる。「え、なんで。さっきまで普通だったのに」と、何度も思いました。

これ、後で知ったんですが「コンテキストウィンドウ」と呼ばれるものでした。AI が一度に覚えていられる情報の量には上限があって、会話が長くなりすぎると、古いところから手が回らなくなる。AI も人と同じで、抱えられる量に限界があるんですね。

ただ、当時の私はそんな言葉も、その仕組みも知りません。分かっていたのは、「会話が長くなると、どうもダメになるらしい」ということだけ。それで、自分なりの目印を見つけました。

チャット画面の右側に、スクロールバーがあるじゃないですか。会話が増えていくと、あのバーがだんだん短くなっていく。私はあれを頼りにしていたんです。バーがある程度まで短くなってきたら、「あ、そろそろもうダメかも」と。そう感じたら、新しいセッションに切り替える。そんなことを、ずっとやっていました。

今思えば、ずいぶん原始的な勘の働かせ方です。スクロールバーの長さで AI の限界を測っていたわけですから。最適なやり方だったとは思いません。それでも、当時の自分には、これがそれなりに役に立っていました。

ただ、新しいチャットを開けばリセットはされるんですが、今度は「うちは7人の会社で」「商材はこういうもので」というのを、また最初から説明し直しです。これが地味に面倒でした。

2. 「これ、ファイルにまとめときゃ楽じゃん」

毎回、同じ前提を打ち込むのが、だんだん馬鹿らしくなってきました。特に面倒だったのが、自分の会社の商品の説明です。新しいチャットを開くたびに、うちはこういう商材で、と一から説明している。これ、ちゃんとまとめておかないとダメだな、と思いました。

ふと、昔観た『メメント』という映画を思い出しました。記憶を10分しか保てない男が、自分の体に彫ったタトゥーや、書き溜めたメモを頼りに生きていく。そんな話です。AI に毎回ゼロから説明している自分を見て、「これ、まさにメメントだな」と思いました。覚えていられない相手なら、こっちが書いたものを渡せばいい。

それである日、やってみました。会社の基本情報をテキストにして、新しいチャットを開くたびに、その文章を最初にコピペして貼る。本当にそれだけ。手作業でコピペするだけの、原始的なやり方です。

でも、これが画期的でした。

回答の質が、まるっきり変わったんです。同じ質問でも、前提を渡してから聞くのと、いきなり聞くのとでは、返ってくるものが別物でした。

ここで一つ、腑に落ちたことがあります。AI の答えの良し悪しを決めているのは、こっちの聞き方の上手さじゃない。渡している情報の量と質のほうだ、と。世間でよく聞く「プロンプトの書き方」みたいな話ではなかったんです。何を渡すか。そこだったんだ、と。

このときもまだ「コンテキスト」という言葉は知りませんでした。それでも、「これ、もっと増やしたら、もっと良くなるんじゃないか」とはすぐに思いました。ここから一気に加速していきます。

3. 本気で作り込もうと思ったのは、社員さんのことだった

机に広げた書類とノートPC、整理しようとしている手元

会社の基本情報を渡すだけでも、効果は十分でした。でも、ここから本気でコンテキストを作り込もうと思ったきっかけは、別のところにありました。社員さんのことです。

実は、これには前段があります。AI を使うずっと前から、やりたかったことがありました。社員さん一人ひとりの「カルテ」のようなものを作りたい、と。病院のカルテをイメージしてもらうと近いと思います。面談した内容を記録しておいて、その人がどういう性格で、どんな仕事が好きで、何が苦手なのか。そういうものを Excel のシートに、一人ずつ作っていく。そんな構想でした。

でも、結局できませんでした。アイデアとしては悪くなかったと思います。ただ、人柄みたいなものはうまく言葉にできないし、一人分まとめるだけでも結構な手間で、時間がかかる。途中で「これは難しいな」となって、そのまま止まっていました。

その「やりたかったけど、できなかったこと」が、頭の片隅にずっと残っていたんだと思います。だから AI を使い始めて、これならいけるんじゃないかと思ったとき、まっさきに浮かんだのが社員さんのカルテでした。一人ひとりの役割が、今のままで本当に合っているのか。それぞれの強み、苦手なこと、やりたくないこと。それをちゃんとまとめて、相談してみたかったんです。

そう思ったら、止まらなくなりました。Gemini に、会社の情報を片っ端からぶち込みました。Google Drive のファイルも食わせて、あとはひたすら喋りました。財務のこと、取引先のこと、製品の経緯。社員さん一人ひとりのストレングスファインダーの結果——得意なこと、苦手なこと、やりたくないこと。前にメールで送ってもらっていたのを探し出して、それも入れました。その頃はまだ Excel や Word も結構使っていたので、そういうファイルも片っ端から放り込みました。

役割とか仕事の中身みたいに、テキストになっていないものは、とにかく口で喋って伝える。これが結構、時間はかかりました。とはいえ、やっていることは、喋ることと、手元のファイルを放り込むこと。それだけです。

この「喋って渡す」に効いたのが、声をそのまま文字にしてくれる音声入力のアプリでした。キーボード入力がどんなに速い人でも、音声入力のスピードには勝てません。喋った分だけ、どんどん情報を渡せる。これは絶対にあった方がいいと思っています。ツールの詳しい話は、また別の機会にちゃんと書きます。

そうやってぶち込んだ情報を、全部 Gemini に整理させて、Google スプレッドシート1枚にまとめさせたんです。これが、いわば「会社のコンテキストシート」になりました。自分できれいにまとめたわけじゃありません。私はただ放り込んで喋っただけで、整える作業は AI がやってくれました。

中小企業の社長って、壁打ちの相手がいないんです。社員さんには言えない。外部のコンサルは、うちの中身を知らない。だからこそ、全部を渡して相談できる相手が、欲しかったのかもしれません。

その点、全部を渡した AI は違いました。返ってきた答えは「社長が抱え込みすぎ」。

言われて、驚いたわけじゃありません。むしろ、「そうだよな」と腑に落ちました。本当のところ、薄々感じてはいたんです。これは自分が抱えちゃいけない仕事だよな、と思いながら、でも渡すのは難しいなと思って、手放せずにいた。それを、会社のことを全部渡した相手から、はっきり「抱え込みすぎ」と言われて、ああ、やっぱり渡さなきゃな、AI の言う通りだ、と思いました。

会社のことを丸ごと渡していたから、AI はそこまで踏み込めたんだと思います。これが、コンテキストの力でした。

実を言うと、この「抱え込みすぎ」という一言は、このあと私の働き方そのものを変えていくことになります。でも、その話はこのシリーズの最後にとっておきます。

4. 聞き方も大事。でも、もっと効くのは「何を渡すか」だった

あのときから4ヶ月以上が経ちました。今振り返ると、この Gemini 時代の気づきが、自分の AI 活用の土台になっています。

もちろん、聞き方は聞き方で大事です。質問の仕方ひとつで、返ってくるものは変わる。それは今でもそう思っています。でも、それ以上に効いたのは、先に何を渡しておくか、でした。トーンや、会社の事情を、最初に渡しておけば、あとは短い指示で通じる。「コンテキスト」という言葉をちゃんと知ったのは、ずいぶん後のことでした。でも、言葉を知るより先に、やっていたことのほうが先だったわけです。

正直に言うと、今は Gemini ではなく別の AI をメインで使っています。ツールは動きが速いので、良いものが出たら乗り換えていいと思っています。ただ、この「何を渡すか」という考え方そのものは、どのツールを使っても変わりません。むしろ、これだけはずっと持っていくものだな、と感じています。

5. おわりに

DX やら AI やら、難しそうに見えるかもしれません。でも私が最初にやったのは、会社の説明をテキストにして、チャットにコピペした。本当にそれだけです。

「ファイルにまとめる」と聞くと、身構える人もいるかもしれません。でも、きれいな資料を自分で作る必要なんてないんです。さっきも書いた通り、喋って、手元のファイルを放り込めば、整えるのは AI がやってくれる。むしろ、まとめる作業こそ、AI を使えば一番ラクなところでした。最初の一歩は、本当にそのくらいで大丈夫です。

次は、この「全部渡す」をさらに進めていったときの話を書きます。3つの AI に同じデータを渡してみたら、Claude だけ違った——そんな話です。


このシリーズについて

「AI に染まりきるまでの4ヶ月」(仮称)は、56歳・7人の会社の経営者が、Google Workspace 導入をきっかけに、Gemini → Claude → Claude Code へと進んでいった記録です。