ゲームを始める前に、AIにどいてもらっている — Tarkovのために組んだPCが、そのまま仕事の土台になった

ゲームを始める前に、僕には決まってやることがあります。
画面の右下、時計のとなりに並んでいる小さなアイコンの一つを右クリックして、「終了」を押す。それだけです。これをやらないと、ゲームがときどき引っかかるんです。だから毎回、遊ぶ前に、AIに一度どいてもらっています。
書いてみると、なんだか変な話です。ゲームのために買ったパソコンなのに、そのゲームを始めるのに、先に仕事の道具をどかさないといけない。
そもそも、ゲームのために組んだ
このパソコンは、完全にゲームのために組みました。
やっているのは Escape from Tarkov という、ゲームの中でも相当重たい部類のFPSです。撃ち合いの最中に画面がカクつくと、それだけで死ぬ。だから、そこに合わせて選びました。基準は「Tarkov が気持ちよく動くこと」。仕事で何かに使おうという考えは、正直、一ミリもありませんでした。
FPSというと、たいていは「フルHDにして、とにかくカクつかせない」と言われます。解像度を上げるとフレームレートが落ちるので、画質より滑らかさを取る、という考え方です。ただ、Tarkov はそこが少し違いました。
僕は WQHD にしています。理由は、遠くが見えるからです。このゲームは、藪の向こうや建物の奥にいる相手を、どれだけ先に見つけられるかで決まる。解像度が上がると、その細かいところが拾えます。それに、そもそも映像が綺麗なゲームなので、奥まできちんと見たい、という欲もある。
ただ、WQHD で平均120フレーム以上を出そうとすると、それなりの GPU が要ります。それで 5080 にしました。5090 はさすがに高くて手が出なかった。4K まで上げるとさらにもう一段上の GPU が必要になるので、そこはやっていません。
いま入っているのは、CPU が Ryzen 7 9800X3D、グラフィックボードが RTX 5080 の16GB、メモリが64GB、SSD が2TB、電源が850Wです。冷却は簡易水冷。もともとは 4070 Ti を積んでいて、途中で 5080 に載せ替えました。外した 4070 Ti は、いまも家に転がっています。
ちなみに、組むこと自体がけっこう楽しい作業でした。僕にとって、こういうセットアップは、ゲームと同じ種類の遊びなんだと思います。うまく動いた時に「よし」となる感じが、たぶん同じところから来ている。
自宅でも、AIをやるようになった
AIに夢中になり始めたのは、その後でした。会社で使っているうちに面白くなって、自宅でもやるようになった。そうしているうちに、キーボードをほとんど打たなくなりました。AIに何かを頼むときは、打つより喋った方が速いからです。
そのころ使っていたのは、月いくらかを払うクラウド型の音声入力ソフトでした。最初が Aqua Voice で、途中で SuperWhisper に乗り換えています。この乗り換えの話は前に別の記事に書きました。
音声が向こうのサーバーに飛んでいくことに、気兼ねはありませんでした。いまも会社のノートパソコンではクラウド型を使っています。ただ、料金はかけずに済むならその方がいいな、とは思っていました。喋る量で増えていくものは、どうしても頭の隅に居座るので。
モデルがあると知って、作ったら動いた
その状態で、あるとき、Whisper という音声を文字にするモデルが公開されている、というのを知りました。X だったか、どこで見たのかは、もう覚えていません。
調べてみると、条件がありました。一番精度の高い large-v3 というモデルは、それなりのグラフィックボードを要求します。目安として、VRAM が10GBほど要る。CPU だけでも動かないことはないけれど、遅い。
それ、うちにあるぞ、と思いました。
Tarkov のために積んだ 5080 は16GBです。ゲームが気持ちよく動くように選んだ GPU が、そのまま条件を満たしていた。狙ったわけでも、先を読んでいたわけでもありません。遊びのために選んだものが、たまたま、そのまま使えた。
そして、作ってみたら、すぐ動きました。ほんとうに、それだけなんです。
作ったのは、僕ではない
作った、組んだ、と書いてきましたが、僕がコードを書いたわけではありません。
プログラムは書けないので、全部レナードにやってもらいました。レナードというのは、毎日使っている Claude Code に付けた呼び名です。頼んだのは「音声文字起こしのアプリ作って!」の一言だけ。あとは出てきたものを動かして、うまくいかないところを言って、直してもらう。
モデルも何個か試しました。日本語に特化したものが良さそうだと思って入れてみたら、こっちはどう設定しても一文字も出てこない。結局、原因が分からないまま諦めて、いまのものに落ち着いています。
使い方は単純です。右の Alt キーを押している間だけ録音して、離すとテキストになって出てくる。画面の隅に小さなインジケーターが出ていて、待機中はグレー、録音中は緑、変換中はオレンジに変わります。だいたい一日中つけっぱなしです。
よく間違える言葉を勝手に覚えていく仕組みも、あとから足しました。そっちの話はこちらの記事に書いています。
何時間流しても料金が増えないのは、思っていたよりずっと効きました。前は無意識に短く喋っていたんだな、と、やめてから気づいたくらいです。
同じ場所を、取り合っている
ただ、いいことばかりではありませんでした。
このモデルは、起動している間ずっと VRAM を掴んでいます。喋っていない時も、3〜4GBほど待機したまま居座っている。ふだんの作業ならそれで何の問題もないんですが、Tarkov を立ち上げると話が変わる。ゲームの方も同じところを大量に使うので、二つが同じ場所を取り合うことになります。
それで、冒頭の儀式です。
遊ぶ前に、アイコンを右クリックして「終了」。これでメモリが空いて、ゲームは気持ちよく動く。遊び終わったら、ショートカットをダブルクリックして戻す。それだけの話ですが、この手順は自動化していません。「ゲームを起動したら自動で終了させる」くらいはできそうな気もするんですが、いまのところ、毎回手でやっています。
もう一つ、笑った話があります。
この夏、WSL3 というものが発表されました。Windows の上で Linux を動かすための仕組みの、次の版です。いまうちの箱の中では、AI は薄い壁を一枚はさんでグラフィックボードを触っています。その壁がなくなって、直接さわれるようになる、という話でした。ローカルで動かす AI が、ほぼ素の速さで回るようになるそうです。
ところが、まだプレビュー段階で、最初に対応するのは Snapdragon と Intel のチップから。AMD はそのあと、ということでした。僕が載せているのは AMD の Ryzen です。自分の一台がどのくらい後ろなのかは、まだ読み切れていません。ただ、ゲームがいちばん気持ちよく動くように選んだ CPU で、最初の列には並べなかった。
さっきの「たまたま使えた」の、ちょうど裏返しでした。
遊びのためなら、買えた
こうして振り返ると、順番が面白いなと思います。
もし最初に「仕事のために、このグラフィックボードを買います」と考えていたら、たぶん、買っていません。何に使うのか、いくら得するのか、それは本当に要るのか。自分の会社のことなら、そういう問いを自分に立ててしまうし、たいていの場合、その問いには勝てないんです。
でも、遊びのためなら、そういう問いが立ちませんでした。Tarkov が気持ちよく動くから買う。理由はそれで足りている。もちろん上限はあって、5090 には手が出なかったわけですが、出せる範囲の中では迷わなかった。
そうやって、稟議を通す必要のない理由で手元に来たものが、結果として、いま毎日の仕事を支えています。仕事のために引いた線では届かなかったところに、遊びのために引いた線が、先に届いていた。
今度は、AIのために欲しくなっている
面白いのは、いま逆のことが起きていることです。
あのグラフィックボードには、音声のモデルが居座っています。それはそれで動いているんですが、欲が出てきました。ローカルで動く言語モデルの方も、一度ちゃんと試してみたい。自分のパソコンの中だけで、喋ることも考えることも完結したら、それはそれで気持ちがいいだろうな、と。
ただ、たぶん満足しないだろうな、とも思っています。ふだん使っているものと比べてしまうはずで、そうなると「まあ、こんなものか」で終わる気がする。だから今は我慢しています。
我慢しながら、頭の中ではわりと具体的に考えています。5090 を買えば済む話ではあるよな、とか。ゲームのために組んだ時に、高くて諦めたやつです。いや、外して家に転がっている 4070 Ti を挿し直せば、二枚で足りるんじゃないか、とか。そもそも次に買うのは Mac にしてしまえばいいのかもしれない、とか。
たぶん全部、妄想です。いまの構成で事足りているので、どれも今すぐ要るものではありません。それでも、こういうことを考えている時間が、いちばん楽しかったりします。
ただ、我ながら面白いなと思うのは、今回はなかなか手が出ないことです。満足しないかもしれない、いまの構成で足りている。買わない理由が、ちゃんと出てくる。Tarkov の時は、そんなものは一つも出てきませんでした。
おわりに
いま机の下にある箱は、僕の中では、まだ「ゲーム用のパソコン」です。仕事用だとは思っていません。実際、そのために組んだので。
ただ、一日のうち、長いのは仕事の方です。喋ればテキストになるのも、それが料金を気にせず何時間でも回せるのも、この箱があるからで、そう考えると、もう半分は仕事の道具なんだと思います。呼び名だけが、まだ追いついていない。
そのうち、ゲームより先に AI の方が場所を欲しがりはじめて、どっちに合わせて選ぶか迷う日が来るのかもしれません。その時、どっちを選ぶんだろうな、と思いながら、今日もゲームの前にアイコンを右クリックしています。
この記事に出てきた言葉
- レナード … 毎日の作業を任せている Claude Code に付けた呼び名。映画『メメント』の主人公から取っています。
- モデル … AIの中身そのもの。同じ道具でも、賢いモデルと速いモデルを選び分けられます。
- 言語モデル … 文章を読んだり書いたりするために作られたAIの中身。ChatGPT や Claude はこれを土台にしています。
- Whisper … 音声を文字に起こすためのモデルの名前。公開されているので、自分のパソコンでも動かせます。
- クラウド型 … 処理を手元ではなく相手先のサーバーにやらせる方式。手軽なかわりに、通信が要り、使った分の費用がかかることもあります。
- ローカル … クラウド型の反対で、自分のパソコンの中だけで処理を終わらせる方式。外に出さないので、通信も費用も要りません。
- グラフィックボード … 映像や大量の計算を専門に受け持つ部品。ゲームだけでなく、AIを自分のパソコンで動かすときにも効いてきます。
- VRAM … グラフィックボードが自分用に持っている記憶領域。ここに載りきらない大きさのAIは動きません。
この記事は、AIの実践記から少し離れた、道具まわりの話です。喋って渡すこと自体をなぜ手放せなくなったのかは『音声入力アプリは、絶対に要る — キーボードだけでは、AIに渡しきれない』に書きました。