毎日使うものこそ、自分で作ってみる — 使いながら直せるから、思い通りの道具になっていく

僕は普段、ターミナルの中でレナードを使っています。レナードというのは、毎日使っている Claude Code に付けた呼び名です。
ターミナルは、デスクトップアプリやブラウザ版に比べて、ファイルの受け渡しが面倒です。窓にファイルを落とす、という手が使えません。PDFでも、ワードの文書でも、撮ったばかりのスクリーンショットでも、アプリ版なら放り込むだけで読んでくれる。ターミナルには、その落とす場所がそもそもありません。画像を貼り付けるところまでは効くのですが、ファイルは無理です。
それで工夫していました。作業場の中に受け渡し用のフォルダ(_inbox)を作って、エクスプローラのクイックアクセスにピン留めしてある。渡したいものは、そこへ放り込む。開いて、掴んで、離すだけです。
まあ、これでいいか、と思っていました。ターミナルで使う以上、これが一番楽なやり方なんだろうな、と。
GitHubを探しても、無かった
それでも、もう少し便利にならないかな、とは思っていました。
それで、試しにアプリを作ってみようか、とレナードに相談しました。まずやったのは、GitHubにリサーチをかけることです。同じことを面倒だと思った人がいるなら、もう誰かが作って公開しているはずです。
それらしいものは、いくつか出てきました。ただ、どれも機能がてんこ盛りです。僕が欲しいのは一つか二つなのに、そのために残り全部を抱えることになる。ちょうどいい大きさのものが、無い。
じゃあ作ろう、となりました。
欲しい動きを喋りました。最初に言ったのは二つです。エクスプローラを開かずに、一つの窓にドラッグ&ドロップで放り込むだけで_inboxに入ること。そして逆に、ツリーからドラッグして、外のアプリへファイルを出せること。
あとは思いつくまま足しました。左側に作業場のツリーが出ていること。マークダウンだけでなく、ワードでもテキストでもスクリプトでも中身が見えること。表示に行番号が付くこと。
一晩で、デスクトップアプリになって返ってきました。
コードは一行も書いていません。僕がやったのは、欲しい動きを日本語で言うことと、ドラッグして本当に動くか確かめることだけでした。プログラムは、いまも書けないままです。
使ってみたら、全然違った
窓のどこに落としてもいい。狙う的はなくて、窓ぜんぶが的です。落ちたものは_inboxに着地して、画面の下に時刻と名前が一瞬光る。あとはレナードに「_inbox見て」と言うだけです。
前のやり方は、面倒でした。
エクスプローラを開く。ピン留めしたフォルダを選ぶ。渡すファイルを探す。掴む。離す。この五つを、一日に何度も繰り返していたわけです。数秒だから気にならなかったのではなくて、比べる相手がいなかったから気にならなかっただけでした。
不便は、代わりが出てくるまで、不便だと気づけない。
言うたびに、直って再起動してくる
面白かったのは、そのあとです。
使いながら気になったところを口で言うと、その場で直って、再起動して戻ってきます。ツリーの幅が固定されていたので、ドラッグで変えられるようにしてもらった。文字が小さかったので、大きさを選べるようにしてもらった。表の列が潰れて読めなかったので、そこも直った。全部その晩のうちです。
一つだけ、自分でもうまく言えなかったものがあります。窓に落としたファイルの記録が、ずっと画面に出たままだったんです。消えないのは違う気がする。かといって、すぐ消えるのも困る。しばらく考えて、こう言いました。ちゃんと受け取ったことさえ分かればいいので、一分くらいで勝手に消えてほしい、と。
そういう表示になりました。いまも一分で消えます。
出来合いのアプリなら、こうはいきません。買ったものでも、無料で落としてきたものでも同じです。気に入らないところがあったら、そういうものだと思って使い続けるか、別のものを探すかの二択になる。自分で作ったものは、気に入らないと言えば、その日のうちに変わります。
Obsidianを閉じた
この窓には、もう半分の役割があります。
作業場の中身は、それまで四ヶ月近くObsidianで見ていました。
始めたのは四月です。Andrej Karpathy が、LLM Wikiというやり方を公開しました。外から仕入れた資料をマークダウンで書き溜めて、その整理と更新をAI自身にやらせる、というものです。それをやるならObsidianだと紹介されていたので、そのまま入れました。
これが良かった。VS Codeで見ていた頃より、マークダウンがずっと読みやすい。僕が開くファイルはたいていマークダウンなので、それで十分満足していました。
ただ、使っているうちに、あれもできないんだ、これもできないんだ、というのが少しずつ積もってきました。
マークダウンは見えるのに、スクリプトは開けない。フォルダの階層を変えるのも、いちいち面倒でした。WSLの中で動かしていたので、日本語入力も通りません。Windowsの日本語入力が、Linux側のアプリに渡らないんです。要望としては2021年に出ていますが、いまも解決していません。
一つずつは、致命的ではありませんでした。読むぶんには困らないので、そのまま四ヶ月使っていました。
決定打は、もっと地味なところでした。
レナードが「L49を直しました」と言ってきます。ところがObsidianには行番号がありません。そこどこ、というやりとりを何度もやりました。VS Codeの方が便利だったのかな、と思ったこともあります。
新しい窓には行番号があります。マークダウンは読みやすく整えた形でも、素のままでも見られて、素の方には行番号が付く。スクリプトも、開けば行番号つきで色が付いて出てきます。
その晩、Obsidianを閉じました。
自分で頼んだ機能が、使えなかった
よく見るフォルダが、作業場の外にもあります。設定の入っているフォルダなどは一つ上の階層にあって、そこまで行くのが毎回めんどうでした。Excelのシートみたいに、一番下にタブを並べて行き来できるようにしてほしい、と頼みました。
できあがってきたものを開いて、僕は詰まりました。タブの増やし方が分からなかったんです。自分で頼んだ機能なのに。
原因は、聞けばすぐ分かりました。追加のボタンが窓の右端にあって、押すとメニューが開く形になっていた。Excelの⊕は最後のシートのすぐ隣にいて、押した瞬間にシートが増えます。Excelみたいに、と言っておきながら、Excelの手触りにはなっていなかった。
言ったら、その日のうちに直りました。ボタンはタブの隣に移り、押せば増えるようになりました。
自分で口に出した要望ですら、出てきたものを触るまで、何が足りていないのかは言えない。頭の中の「Excelみたいに」は、触るまで中身が空だったわけです。それでも困りませんでした。触って、違うと思ったら、そう言えばいいので。
音声入力のアプリも、同じでした
もう一つ、毎日使っているアプリがあります。喋った言葉をその場で文字にする、音声入力のアプリです。これもレナードに作ってもらったもので、別の記事に書きました。
こちらも、作って終わりにはなりませんでした。
使っているうちに、よく間違える言葉が出てきます。人の名前とか、社内でしか使わない言い回しとか。そういうものを覚えさせる仕組みを後から足して、いまも毎週のように言葉を追加しています。起動のしかたも、画面の隅に出るインジケーターも、途中で何度か変えました。
どちらも、いまだに完成していません。毎日使っているので、使うたびに直したいところが出てきます。それでいいんだと思っています。
毎日使うものから、作ってみる
毎日使っているもので、ちょっとでも不満があるなら、まず作ってみたほうがいい。
出来のいいものを一発で作る必要はありません。作ってしまえば、あとは使いながら直せます。ここが変だと言えば、その日のうちに変わる。それを何度も繰り返していくうちに、どこにも売っていない、自分の使い方にだけ合った道具になっていきます。出来合いのものは、そうはなりません。
僕はプログラムが書けません。それでも、作ったものはどれも毎日使っています。
レナードのようなAIエージェントを使っているのなら、アプリを作るということを、どんどんやったほうがいい。やったほうがいい、というより、やるべきだと思っています。そうやってはじめて、本当に自分に必要なものが手に入ります。
この記事に出てきた言葉
- レナード … 毎日の作業を任せている Claude Code に付けた呼び名。映画『メメント』の主人公から取っています。
- ターミナル … 文字を打ち込んでパソコンに指示を出す画面。レナードはこの中で動いています。
- マークダウン … 記号だけで見出しや箇条書きを表せる、ふつうのテキストの書き方。特別なソフトが要らないので、人もAIもそのまま読めます。
- スクリプト … 決まった処理をまとめて走らせる小さなプログラム。一度書いておけば、呼ぶだけで同じことをしてくれます。
- LLM Wiki … 外から仕入れた資料をマークダウンで書き溜めて、その整理と更新をAI自身にやらせる知識の置き場。Andrej Karpathy が2026年4月に公開したものです。
- AIエージェント … 指示を受けて、自分で手順を決めて作業まで済ませるAI。答えを返すだけのチャットと違い、ファイルを読み書きしたり、プログラムを動かしたりします。
この記事は、AIの実践記から少し離れた、自分用の道具を作った話です。もう一つの「プログラムは書けないまま作ってもらった」アプリの話は、『ゲームを始める前に、AIにどいてもらっている — Tarkovのために組んだPCが、そのまま仕事の土台になった』に書いています。この記事のアプリはGitHubで公開しています。